新人が感じているギャップ
この部の 1 / 6 章 ・ 全体で 8 / 22 章 ・ 読了目安 20 分
- 黙っている理由を性格ではなく前提の問題として扱える
- 「聞いていい」を「聞くのが仕事」に変えられる
- 説明していない前提を自分で洗い出せる
新人が戸惑っていることの多くは、こちらからは見えません。
理由は単純で、あなたにとっては当たり前すぎて、 説明が必要だと思っていないからです。
「30分詰まったら聞いていい」 → 言われないと、聞くのは迷惑だと思っている
「7割で見せていい」 → 完璧にしてから出すものだと思っている
「レビューの指摘は普通のこと」 → 減点されたと感じている
「分からないと言っていい」 → 分からないのは恥だと思っている
新人が黙って3日溶かしたとき、本人はサボっていたわけではありません。 学生時代のルールで、真面目に頑張っていただけです。
新人側の教科書の第0部「学生と実務は何が違うか」が、この章の対になります。
新人には「30分で聞け」「7割で見せろ」「黙っているのが最も評価を下げる」と 書いてあります。それを受け入れ側が保証するのが、この章の内容です。
学生時代のルールは、実務とほぼ逆
新人が持ち込んでくる前提を、明示的に並べます。
| 場面 | 学生時代のルール | 実務 |
|---|---|---|
| 人に聞く | カンニング。恥 | 仕事。早いほど良い |
| 完成度 | 完璧にして提出 | 7割で見せる |
| 詰まった時 | 自力で解くのが偉い | 30分で相談 |
| 締め切り | 徹夜で間に合わせる | 早めに「間に合わない」と言う |
| 進捗 | 報告する義務は無い | 見えないこと自体が問題 |
| 指摘 | 減点 | 情報。関心の表れ |
| 正解 | 教科書にある | 誰も知らない |
| ゴール | 動いたら終わり | 運用が続く |
左の列は、10年以上かけて身につけた習慣です。 1回言っただけでは切り替わりません。
見えている行動と、実際に起きていること
新人の行動を「やる気」や「能力」で解釈すると、たいてい誤ります。
| 見える行動 | 実際に起きていること |
|---|---|
| 質問してこない | 「迷惑」「無能だと思われる」と考えている。何を聞けばいいかも分からない |
| 進捗を言わない | 報告するほどのことではないと思っている。悪い報告をしたくない |
| 「大丈夫です」と言う | 大丈夫かどうかを判断する基準を持っていない |
| なかなか PR を出さない | 完璧にしてから出すものだと思っている |
| 指摘後に萎縮する | 人格を否定されたと感じている |
| 見積もりが極端に短い | 何が起きるか知らないので、正常系だけを数えている |
| 会議で発言しない | 何を言えば価値があるのか分からない |
| 「1行も書いていない」と落ち込む | 成果=書いた量だと思っている |
どれも、本人の性格ではなく前提の問題です。
最初に言葉にして渡すこと
初日から数日のうちに、明示的に伝えてください。 「察してもらう」ことは期待できません。
□ 「30分詰まったら聞いてください。それが正しい行動です」
→ 数字を出す。「いつでも聞いて」では機能しない(質問しやすさを仕組みで作る)
□ 「完璧にしなくていいです。7割で見せてください」
→ 途中で見せる実例を、こちらから見せる
□ 「1日1回、進捗と詰まりを書いてください」
→ 形式(分報・チケットのコメントなど)を指定する
□ 「レビューの指摘はコードに対するものです。人への評価ではありません」
→ 最初のレビューの前に言う
□ 「見積もりは外れて構いません。外れたと分かった時点で言ってください」
□ 「コードを書いていない日があっても問題ありません」
→ 読む・調べる・聞くも仕事だと明言する
□ 「分からない言葉が出たら、その場で止めて聞いてください」
許可の形だと、本人の中では「迷惑をかける許可をもらった」ということになります。
「困ったら聞いてね」 → 遠慮が残る
「30分で聞くのがルールです」 → 従うべき手順になる
義務の形にすると、心理的な負荷が消えます。 これは質問しやすさを仕組みで作るの「聞いてよいを、聞くのが仕事に書き換える」と同じです。
質問できない理由を、仕組みで潰す
「なぜ聞かないのか」を本人に聞いても、あまり出てきません。 代わりに、聞かなくてよい状態を作ります。
□ こちらから定期的に聞く(1日1回、5分でよい)
→ 「困ってることある?」ではなく「今どこまで進んだ?」「どこで止まってる?」
□ 詰まりを検知する仕組みを持つ(質問しやすさを仕組みで作る)
→ チケットが動いていない、コミットが無い、分報が止まっている
□ ペアで作業する時間を作る
→ 質問という形をとらずに、疑問がその場で解消される
□ 「これは聞くべきか」の基準を先に渡す
→ 30分、という数字がそれ
新人は、何が分からないかが分からない状態にいます。
悪い: 「何か分からないことある?」→「大丈夫です」
良い: 「この処理、なんで status を2回チェックしてるか分かる?」
「さっきの用語、説明できる?」
「今の作業、私が知らない人だと思って説明してみて」
具体的に聞くと、分かっていない箇所が浮かび上がります(コードベースとドメイン知識を渡す)。 そしてそれは試験ではなく、こちらが何を説明し忘れたかの確認です。
期待値を、数字と例で渡す
新人が最も不安なのは、「このペースでいいのか」が分からないことです。
□ 「このタスクは3日を想定しています」と最初に言う
→ 遅れているのかどうかを、本人が判断できるようになる
□ 「最初の1ヶ月は、コードより理解に時間を使ってください」
→ 成果が見えないことへの不安が消える
□ 「3ヶ月後にこうなっていれば順調です」と伝える
→ 評価と目標設定の評価基準を先に渡す、と同じ
優しい言葉は必要ですが、基準が無いと本人は測れません。
「大丈夫、最初はそんなもんだよ」
→ 本当に大丈夫なのか、気を遣われているのかが分からない
「今のペースは想定通りです。1ヶ月目はこれで問題ありません」
→ 事実として伝わる
こちらの当たり前を疑う
新人が詰まった時、説明していない前提が原因であることがよくあります。
□ 社内の略語・プロジェクト名・システム名(コードベースとドメイン知識を渡すの用語集)
□ 「いつもの手順」(誰にも書かれていない)
□ 承認が必要な作業と、必要でない作業の線引き
□ 誰に聞けばいいかの地図
□ Slack のどのチャンネルで何を話すか
□ 会議に出る目的(聞くだけでよいのか、発言すべきか)
□ 「これは触ってはいけない」の範囲
「なぜこれを聞くのだろう」と思った質問こそ、 チームが言語化できていない部分です。
質問された → 答える → その場でドキュメントに書く(または本人に書いてもらう)
2〜3人受け入れる頃には、オンボーディング資料が完成します(チームとして受け入れる・コードベースとドメイン知識を渡す)。
やってはいけない反応
□ 「そんなことも知らないの」(一度でも言えば、二度と聞かれなくなる)
□ 質問に対して、すぐ答えず「自分で調べて」だけ返す
□ 忙しそうな態度を見せる(聞くタイミングを永久に失わせる)
□ 他の人と比較する(複数人を同時に受け入れる)
□ 質問の内容ではなく、質問の仕方を先に指摘する
最後の項目は、良かれと思ってやりがちです。 まず答えてから、次回のための形式を伝えてください。 順序が逆だと、質問すること自体のハードルが上がります。
新人の側にしかない価値を、活かす
ギャップは埋めるだけのものではありません。 その時期にしか出せない価値があります。
□ 「なぜこうなっているんですか」と聞ける(慣れた人は疑問に思わない)
□ 環境構築手順を本当に検証できる唯一の人(受け入れ前にそろえるもの)
□ 用語の曖昧さに最初に気づく
□ 「これ、変じゃないですか」と言える
これらを歓迎していると明示してください。
「分からないことがあったら、それはドキュメントの不備です。教えてください」
「変だと思ったら言ってください。慣れてしまうと気づけなくなるので」
本人にとっては貢献の実感になり、チームにとっては実利があります。
新人にタスクを説明した後、「わかりました」と返ってきました。しかし翌日、ほとんど手が進んでいません。最初に疑うべきことは何でしょうか?
この章のまとめ
- 新人が黙っているのは、サボりでも能力不足でもなく、 学生時代のルールで真面目に頑張っている結果
- 学生時代の常識は実務とほぼ逆。 聞くのは恥 / 完璧にして提出 / 自力で解く / 進捗は報告しない
- 「聞いていい」ではなく「30分で聞くのが仕事」 と、義務の形で渡す
- 質問を待たず、こちらから具体的に聞く。 「分からないことある?」では何も出てこない
- 期待値を数字と例で渡す。基準が無いと本人はペースを測れない
- 詰まりの原因は、たいていこちらが説明していない前提にある
- 新人の質問は暗黙知の棚卸し。答えたらその場でドキュメントにする
- 一度「そんなことも知らないの」と言えば、二度と質問は来ない
- 「なぜ?」と聞ける立場は一時的な資産。歓迎していると明示する
参考資料
| 対象 | リンク |
|---|---|
| 新人側の教科書「学生と実務は何が違うか」 | https://learning-it-skills.makoto-developer.net/chapters/student-to-work/ |
| 新人側の教科書「新人としての心構え」 | https://learning-it-skills.makoto-developer.net/chapters/mindset/ |