新人を受け入れる技術

技術以外を教える

この部の 3 / 6 章 ・ 全体で 10 / 22 章 ・ 読了目安 25 分

この章を読むとできるようになること
  • 言いにくいことを事実ベースで伝えられる
  • 2回目は仕組みを疑える
  • 担当範囲の線引きができる

技術は教えるのに、技術以外は誰も教えません。

□ 遅刻の連絡が来ない
□ 「できています」と言っていたのに、できていない
□ Slack に返信が無い
□ 会議で一度も発言しない
□ 体調が悪そうなのに何も言ってこない

これらは、言えば直ることがほとんどです。 しかし、言いにくい。だから放置され、注意されないまま評価だけが下がります。

この章は、その「言いにくいこと」をどう扱うかの話です。

対応する章

新人側の教科書には「社会人としての規律」という章があり、 遅刻の連絡・寝坊した時の謝り方・報連相・チャットの作法までを書いてあります。

ただし、本を読ませただけでは行動は変わりません。 受け入れ側が最初に明示し、ずれたら早く伝える必要があります。

なぜ放置されるのか

□ 「技術の指導ではないから、自分の仕事ではない気がする」
□ 「ハラスメントと言われたら怖い」
□ 「そのうち慣れるだろう」
□ 「言うほどのことではない」

どれも理解できます。 しかし放置した結果、

3ヶ月後: 周囲が「あの人は約束を守らない」と認識する
6ヶ月後: 評価面談で、本人が初めて知る

本人にとって、これが最も不幸です(第8部のサプライズをなくす)。 早く言えば1分で終わったことが、放置すると評価と信頼の問題になります。

最初に明示する

最も効果があるのは、問題が起きる前に伝えておくことです。

初日〜初週に、期待を具体的な行動として渡します。

□ 始業時刻と、遅れる時の連絡先・連絡方法
□ 休む時の連絡(誰に・いつまでに・どの手段で)
□ 中抜けや離席の共有の仕方
□ チャットの返信の期待値(「すぐでなくていいが、見たら一言」)
□ 進捗をどこにどの頻度で書くか
□ 会議で何を期待しているか(発言してよい/聞くだけでよい)
暗黙のルールを、書き出してみる

チームには、誰も明文化していないルールが必ずあります。

□ 朝会に何分前に入るか
□ Slack のステータスをどう使うか
□ 「確認しました」を返す文化があるか
□ 会議の議事録は誰が取るか
□ 休暇の申請はどのくらい前に出すか

これらは新人には見えません。そして、 守れていないと「常識が無い」と受け取られます。

受け入れの前に一度書き出すと、そのまま初日の資料になります (第2部のテンプレート集)。

伝え方

技術の指摘(第5部)と、基本は同じです。事実を、早く、1対1で。

1. 事実を言う      「今朝、連絡が無いまま30分遅れていました」
2. 影響を伝える    「朝会の進行を待つか、飛ばすかの判断ができませんでした」
3. どうしてほしいか「遅れると分かった時点で、Slack に一言もらえますか」
4. 確認する        「何か事情がありましたか」   ← 順番はここでよい
人格ではなく行動を指す
✕ 「社会人としての自覚が足りない」
✕ 「学生気分が抜けていない」
○ 「連絡が無かったので、判断ができませんでした」

「自覚」「意識」「やる気」は、指摘しても改善しません。 本人にも、何をすればよいか分かりません。

行動を1つだけ、具体的に伝えるのが最も効きます(第5部の SBI)。

「学生気分」と決めつけない

遅刻や連絡漏れの原因は、気の緩みとは限りません。

□ そもそも「連絡すべき」と知らない(学生時代は無かった)
□ 連絡先・手段を教わっていない
□ 体調・メンタルの不調
□ 通勤や生活の事情
□ 業務量が過大で、睡眠が足りていない  ← 受け入れ側の問題

最後の項目を疑わずに指摘すると、本人を追い詰めます。

まず「何か事情がありますか」と聞いてください。 仕組みや業務量の問題なら、直すのはこちら側です。

1回目と2回目で対応を変える

1回目  伝える。理由と、どうしてほしいかを添える
2回目  仕組みで解決できないかを一緒に考える
3回目  評価・人事の観点として、上長を交えて扱う
2回目は「仕組み」を疑う

同じことが繰り返される時、本人の意志だけの問題ではないことが多いです。

□ 遅刻が続く      → 始業時刻が生活と合っていないかもしれない
                     (フレックスや在宅で解決することがある)
□ 報告が来ない    → 報告する場が無い/報告すると詰められる経験をした
□ 返信が遅い      → 通知設定が分からない/何を返せばいいか分からない

「気をつけて」で直らないことは、仕組みで直します。 これは第3部の「質問しやすさを仕組みで作る」と同じ発想です。

具体的な場面

遅刻・欠勤

□ 「遅れると分かった時点で連絡」を初日に伝える
□ 連絡が来たら、まず「わかりました」とだけ返す(詰めない)
□ 理由を根掘り葉掘り聞かない(体調は特に)
□ 繰り返す場合のみ、原因を一緒に探す

正直に「寝坊しました」と言えることのほうが、 言い訳を作る習慣より、はるかに価値があります(エンジニアと法律の 「インシデントを隠さない」と同じ構造)。 正直に言った時に責め立てると、次から嘘をつくようになります。

「できています」が実はできていない

□ 「できた」の定義を、こちらから示す(第2部の DoD)
□ 進捗を口頭ではなく、見える形で出させる
□ 「見せてもらっていい?」を習慣にする(疑いではなく、通常運転として)

本人が嘘をついているのではなく、 「できた」の基準が違うだけのことがほとんどです。

返信が無い・反応が無い

□ 期待値を明示する(「すぐでなくていいが、見たら一言ください」)
□ 何を返せばいいか分からない場合がある → 例を見せる
□ 通知が届いていない可能性も確認する

会議で発言しない

□ 「発言しなくてよい会議」なのかを、先に伝える
□ 発言してほしいなら、事前に「後で感想を聞くね」と予告する
□ いきなり「どう思う?」は、答えられない(第3部)

どこまでが自分の仕事か

すべてをメンターが背負う必要はありません。

内容主な担当
日々の行動(連絡・報告・作法)メンター/チーム
業務量・労働時間上長(第2部)
勤怠の記録・手続き人事
体調・メンタル産業医・相談窓口(第2部)
評価・処遇上長(第8部)
1人で抱えない
□ 遅刻が常態化している
□ 明らかに体調が悪そう
□ 何度伝えても変わらない
□ 本人との関係が悪化している

これらは、メンター1人で解決すべき問題ではありません。 上長・人事に共有してください。抱え込むほど、 選べる手段が減っていきます(第7部)。

文化や背景の違いを前提に置く

□ 留学生・海外出身のメンバー(連絡や敬語の慣習が違う)
□ 学生(授業・試験・研究室の事情)
□ 家庭の事情、通院、育児・介護

「常識」は、育った環境によって違います。 明文化していないルールほど、伝わりません。

そして、こちらの「常識」が正しいとは限りません。 必要な理由を説明できないルールは、見直す価値があります。

新人の遅刻が2回続きました。1回目は伝えてあります。2回目の対応として最も適切なのはどれでしょうか?

この章のまとめ

  • 技術以外は誰も教えないため、注意されないまま評価だけが下がる
  • 最も効くのは問題が起きる前に明示すること。 暗黙のルールを書き出すと、そのまま初日の資料になる
  • 伝え方は事実 → 影響 → どうしてほしいか → 事情の確認
  • 人格(自覚・意識・やる気)ではなく、行動を1つだけ指す
  • 「学生気分」と決めつけない。業務量や仕組みが原因のこともある
  • 1回目は伝える、2回目は仕組みを疑う、3回目は上長を交える
  • 正直に言えることに価値がある。責め立てると嘘をつくようになる
  • 「できています」は嘘ではなく、基準が違うだけのことが多い
  • 勤怠・体調・評価は、メンター1人の担当ではない
  • 「常識」は環境で違う。説明できないルールは見直す

参考資料

対象リンク
厚生労働省 労働時間・休憩の基準https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/index.html
厚生労働省 こころの耳(メンタルヘルス)https://kokoro.mhlw.go.jp/
あかるい職場応援団(ハラスメント)https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
新人側の教科書「社会人としての規律」https://learning-it-skills.makoto-developer.net/chapters/discipline/
読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。